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【③】ヒトに一番近いサルは、道具で文化を生み、助け合う~いしかわ動物園で霊長目の進化を追う~

前々回の記事より、私たち「ヒト」に近い仲間「霊長目」の生態を紹介し、その進化を追っています。

舞台は「いしかわ動物園」(石川県能美市徳山町)。

いしかわ動物園では、4つのエリアで霊長目の動物たちに会うことができます。

①サルたちの森(順路前半)
②南米の森(順路前半)
③チンパンジーの丘(順路後半)
④オランウータンの森(順路後半)

そして、霊長目は4つのグループに分けることができます。

原猿類:前々回紹介した「ワオキツネザル」など
旧世界ザル(狭鼻猿類):前々回紹介した「ブラッザモンキー」など
新世界ザル(広鼻猿類):前回紹介した「コモンリスザル」「ワタボウシタマリン」など
類人猿

今回は最終回!
私たち「ヒト」にもっとも近い霊長目、「類人猿」を紹介します。

「類人猿」って?

(「Wikipedia」より)

「類人猿」とは、霊長目の中で最もヒトに近く、進化した種類のこと。

現存するのは、テナガザルオランウータンゴリラチンパンジーの4種(2023年4月現在、いしかわ動物園にゴリラはいません)。

その最大の特徴は、高度な知能を有し、社会的な生活を営んでいること。

また、ほかの霊長目と異なり、尾がありません。手や足をほとんどヒトと同じくらい、大変器用に使います。

いしかわ動物園の「類人猿」たち

【類人猿】シロテテナガザル(霊長目 テナガザル科)

まずはテナガザルの仲間、「シロテテナガザル」の紹介から。
名前には「テ」が2回続くので、お間違えなく。

彼らはマレーシアなどの熱帯雨林に生息しています。

▼いしかわ動物園では「サルたちの森」で会うことができます

この子の名前は「ルル」。2015年生まれの男の子。
彼のを見てください。毛色が「白」ですよね。

「白い手の、手が長いサル」…それがシロテテナガザルの名前の由来!

この2頭は、同じポーズでぶら下がっていました。上がメスの「サクラ」、下がオスの「ルーク」です。2頭は「ルル」の両親。

▼小さい頃のルルとお母さんのサクラ

シロテテナガザルの体毛は、白、茶、黒など個体差があります。性別や年齢とは関係がありません。オスとメスで色が異なる動物もいる中で、性差がないというのは不思議な特徴ですね。

シロテテナガザルは、一夫一婦のつがいを形成し、このペア関係は生涯持続します。私たちヒトに近いですね。

ルークとサクラは子育てが非常に上手な夫婦で、これまでに4頭の子どもを生み育ててきました。

彼らはイチジクなどの果実を好むほか、芽や葉、花、昆虫、小鳥の卵などを食べます。餌として、実に100種以上の植物が知られています。

私たちヒトもかなりの種類の食べ物を食べますが、植物だけでいうとシロテテナガザルの方が多いのではないでしょうか。
 

さて、果実を獲るには木に登らなければいけませんね。

シロテテナガザルは「樹上生活」に適応しています。胸の筋肉が非常に発達していて、腕の力や握力も強いのが特徴。

長い腕を左右交互に前方に出して、木の枝を握り、まるで「うんてい」をするかのようにして前進します(「ブラキエーション」といいます)。

動画を見ると、私たちの知っている「うんてい」のやり方ではないことがわかりますね(笑)

一回の移動距離も、速度も半端じゃありません。静止画の撮影は、よっぽど性能の良いカメラでも難しいでしょう。

ちなみにシロテテナガザルは1日の50%以上を、採餌と移動に使っているといわれています。

▼「大車輪」もお手のもの!

ルルは地上から3mくらいの高台で、私たちを観察していました。

(来園者に興味津々)

シロテテナガザルは、めったに地上に降りてきません。なかなか人に慣れず、大人になるにつれて警戒心が強くなります。

ですが、いしかわ動物園の3頭は比較的人に慣れているように思いました。来園者のしぐさや持ち物に、興味津々です。

こんなに近くまで!会話もできちゃいそうです。

また、彼らのもう一つの特徴は「合唱」

シロテテナガザルは家族単位で生活し、縄張り意識が強い動物。

とても大きな声で呼び合ったり、高い声で合唱することがあります。それはほかの群れに対して縄張りのアピールをするためだったり、夫婦のきずなを深めたり、子どもとコミュニケーションをとるためだといわれています。

その歌声は、2㎞先まで聞こえるほど!

※筆者がいしかわ動物園を訪れた5日後の2023年3月23日、ルークは残念ながら亡くなってしまいました。

ごはんを家族に譲ったり、子どもと一緒に遊んであげる優しい性格だったルーク。頼れるお父さんでした。

【類人猿】オランウータン(霊長目 ヒト科)

「オランウータン」は、私たちヒトに非常に近い動物です。その遺伝子は、ヒトと97%同じといわれます。知能が非常に高く、人間に例えるとだいたい5歳児と同じくらいではないかといわれています。

現在では、ボルネオ島に生息するボルネオオランウータンと、スマトラ島に生息するスマトラオランウータン・タパヌリオランウータンの3種に分けられ、その数は非常に少なくなっています。

いしかわ動物園では「オランウータンの森」で、ボルネオオランウータンのメス「ドーネ」に会うことができます。

オランウータンは、ほぼ完全な樹上生活。その生活を再現するために、室内展示場には消防ホースで作成した遊具を設置しています。

ドーネはとても人懐っこく、ガラス越しに来園者のようすを観察している姿が大人気。

(ドーネは毛布が大好き。)

オランウータンは地球上のわずかな動物しかできない、「文化を生み出してそれを継承すること」ができる動物です。

ドーネは飼育員さんから毎日手作りの遊具をもらって遊んでいます。かしこいドーネは何回か使えばすぐに遊具を使いこなし、飼育員さんも予想しなかったような使い方を編み出すこともあるとか。

ドーネは頭からかぶったり、床に敷いて座ったり、さまざまな方法で毛布を使っています。

また、オランウータンに関するこんな話も。

ある日野生のオランウータンが、人が石けんで身体を洗うようすを見て覚え、同じように石けんで身体を洗い始めました。そして、それを40年以上にわたって群れの中で代々受け継いでいるという事実があります。その群れは、ノコギリで木を切ることもできます。

オランウータンの「文化を生み出して継承する能力」は、彼らの知的好奇心によるもの。彼らは道具の使用を「文化」としてとらえ、社会的学習によってそれを代々伝えていると思われます。

オランウータンは単独で生活する動物ですが、個体同士で「文化」が生まれると、仲間として一緒に行動する性質があります。そうして仲間が発明した技術を観察によって学んでいくのです。その結果、個々の認知能力が高まるだけでなく、個体群全体の知能水準の向上にもつながっていくといわれています。

ちなみにドーネは最近、採血の訓練を頑張っているのだそう。

動物園では動物の健康管理のため、さまざまなことを動物に協力してもらう必要があります。例えば採血であれば、ドーネが針のような尖ったものに慣れること、針を刺すときにじっとしていられることなど。そうした訓練を「ハズバンダリートレーニング」といいます。

採血は2022年夏頃から成功率が上がっているそう。

彼女は歯磨きのトレーニングも成功させていて、今では毎日歯磨きができるそうですよ。

【類人猿】チンパンジー(霊長目 ヒト科)

「~いしかわ動物園で霊長目の進化を追う~」編の最後に紹介するのは、私たちヒトに最も近いとされる「チンパンジー」

いしかわ動物園では、太い木が組み合わさった遊び場や洞窟のある「チンパンジーの丘」で会うことができます。

(いしかわ動物園情報誌『アニマルあいズ』2020年夏・秋合併号 より)

園内では2023年4月現在、オス2頭、メス2頭の計4頭が暮らしています。かつてはオスの「ハロー」とその両親による「家族グループ」と、オスの「モンテ」、メスの「キケ」、メスの「サンドラ」の「オーストラリアグループ」の2グループに分けた展示を行っていました。

(オーストラリアグループの3頭)

2017年と2019年に「家族グループ」の両親が亡くなり、ハロー一頭になってしまったことをきっかけに、いしかわ動物園では4頭全員の同居を目指した取り組みを行っています。

チンパンジーは「父系社会」。オスは自分が生まれた群れで一生暮らします。そのため基本的にはオスが別の群れに加わるということはありません。ハローと3頭との同居はとても難しく、時間がかかることなのです。

実際、4頭の同居が進展するまでの間、ハローとモンテはオス同士でけんかをしました。本来、チンパンジーは群れ同士の争いが起こると非常に凶暴になり、命を奪ってしまうこともあります。動物園のスタッフさんたちは、それは慎重に取り組みを進めたのだろうと思います。

飼育員の小山さんによると、2020年夏頃、4頭の同居のゴールが見えてきたそう。

メスのキケが積極的にハローを落ち着かせ、あいさつをしたり、グルーミング(毛づくろい)をしたりして迎え入れたのだそう。

▼ハローにやさしく触れるキケ

おかげでハローがモンテやサンドラを警戒することが減り、じゃれあう時間も増えました。キケは気配りのできる優しい性格ですね。

現在はさらに同居時間を増やしていくこと、そして屋外展示場でずっと一緒にいられるようになったら、逃げ場の少ない屋内展示場でも落ち着いていられるようになることを目指しています。

今後も同居計画が順調に進むといいですね。

チンパンジーの特徴

(オーストラリアグループの日常)

チンパンジーはオランウータンよりもさらにヒトに近い動物。その遺伝子は、約98.8%がヒトと同じといわれます。

数字を記憶できたり、じゃんけんができたり、オランウータンのように道具を使用する中で「文化」を形成し、それを伝えたりすることができます。

その知能の高さは、身振り・手振りに加えて、互いの表情を取り込んだ「会話」のようなコミュニケーションをとることからも明らか。

(チンパンジーのコミュニケーション(いしかわ動物園内掲示))

群れで生活するチンパンジーには、複雑な社会構造とともに、さまざまなコミュニケーションがあります。例えば口をすぼめたり、口を横に引いたりする表情は「落ち込み」の感情を表すといわれています。

コチラの動画では、サンドラが「ディスプレイ(威嚇などの行動)」をしたあと、キケに「ごめんね」と謝るようなしぐさをしています。

また、先ほどオスのハローが群れに加わるために、メスのキケが手助けしたというエピソードがありましたが、そこにチンパンジーの「助け合い」の精神を読み取ることができます。

彼らは私たちヒトのように「頼まれていないが助ける」ということはあまりしませんが、「相手が助けを求めている」と認識すればそれに応えるという「利他行動」をとることがあります。キケは、ハローがモンテとサンドラを警戒していることを感じ取り、自分に助けを求めていると認知してハローを助けたのでしょう。

(サンドラ)

いしかわ動物園のチンパンジーたちは来園者にも大変人気で、いつも果物などのプレゼントをもらっています。

中でもサンドラは、園内で一番長寿の動物!敬老の日にはプレゼントがたくさん贈られるんですよ。

サンドラは2023年2月28日、52歳の誕生日を迎えました。これからも楽しく穏やかに長生きしてほしいですね。

チンパンジーをはじめ、オランウータンやゴリラといった「ヒト科」の動物は、「自分」を認識できることも大きな特徴です。

私たちにとっては当たり前のことですが、鏡に映った自分が「自分」だとわかるのです。例えば鏡に映った自分にほくろや傷があったら、その部分を触ることもあります。

~いしかわ動物園で霊長目の進化を追う~

3回にわたって、いしかわ動物園の「霊長目」を紹介しました。私たちに近い存在だからこそ、その共通点や相違点が明確だったと思います。

霊長目とヒトは、進化の過程で別々の道を歩んできました。それでも、多くの共通点があります。彼らを知ることで、ヒトに近い存在が、よりよく生きる方法を考えることができます。

皆さんも動物園に行った際は、霊長目のさまざまな特徴を観察してみてはいかがでしょう。皆さんとの共通点と相違点、どちらも見えてきて面白いですよ。

文章・画像/名月子店(めいげつこてん)

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