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【多摩動物公園】インドサイ「ゴポン」とともにつくったトレーニング。その内容や目的に迫る!

今回は「東京都多摩動物公園」(東京都日野市)で行われているインドサイのトレーニングについて紹介します。

「インドサイ」といえば、硬い皮膚が特徴的で、体全体がで覆われているように見えることは有名ですね。でも人とトレーニングしている姿は、あまり想像できない気がします。

2023年8月下旬、この日はナイトズーの開催日でした。インドサイは夕方になると屋外展示場から室内に戻るそうで、17時前にインドサイ舎を訪れると室内には一頭の女の子がいました。

彼女の名前は「ゴポン」ちゃん。
ゴポンの周りには飼育員さんが3人。

飼育員さんによると、ゴポンは2022年の4月から「新しいトレーニング」を始めたのだそう。

そのトレーニングとは…!?
一体どんな目的で行っているのでしょうか…?

トレーニングの内容は?

ゴポンが飼育員さんと始めたトレーニングは「ターゲットトレーニング」と呼ばれます。ターゲットトレーニングとは、ターゲット(目標物)に、動物が自分から体の一部を近づけるトレーニングのこと。

(左:ターゲット棒、右:クリッカー)

ゴポンが取り組んでいるターゲットトレーニングは、飼育員さんが持っているこの「ターゲット棒」「クリッカー」を使って行われます。

飼育員さんが「はな」と号令をかけると、柵越しに差し出されたターゲット棒の先端に、鼻先を付けます。成功すれば飼育員さんが「カチッ!」とクリッカーを鳴らし、フルーツをあげます。クリッカーの役割は、ゴポンに「正解」を教えること。ゴポンが正しい行動をとったときに鳴らします。

これを繰り返すことで、ゴポンを寝室の中で来てほしい位置に誘導することを目指しているのだそうです。

※なぜ「鼻先」なの?
鎧のように固い皮膚を持つインドサイですが、鼻先はやわらかく、感覚に優れているからです。インドサイは上唇の先端(鼻先)がよく動き、木の枝などを引き寄せることもできます。ゴポンも上唇の先端を器用に動かしていることがわかります。

なぜトレーニングをする必要があるの?

動画:https://youtube.com/shorts/R8HobVaY3uI?feature=share

トレーニングをする目的は、第一に「健康管理」です!

ゴポンは秋から夏前にかけて、お尻周辺の皮膚のただれが強くなります。その治療のため、飼育員さんは患部を水で洗って清潔に保ったり、薬を塗ったりする必要があります。

(えさをあげる飼育員さんと、患部を洗う・薬を塗る飼育員さん、手分けしてやっています)

多摩動物公園では安全管理上、飼育員さんが柵内に手を入れるなどしてサイと接触することを禁止しています。そのため以前からえさなどを用いて柵の方にサイを寄せて、治療を行ってきたのだそう。

(インドサイは下の犬歯が発達しているのが特徴。ツノではなく犬歯でたたかう個体も多い…!)

そんな今までの馴致作業に加えて、ターゲットトレーニングによってゴポンを治療しやすい位置に誘導することで、動物と飼育員さんの双方の安全を確保しながら、よりスムーズに治療を行えるようになりました。

えさによる馴致とターゲットトレーニングの違いは、ゴポンの「納得感」にあると思います。ゴポンからしたらどちらもえさのためのトレーニングかもしれませんが、ターゲットトレーニングはえさをもらう前に一つ、「鼻先を棒につける」という工程を挟んでいますね。この行動を何度もこなせることはすなわち、ゴポンが納得して自分から動いているということを指します。

動物がきちんと納得感をもってくれることで、飼育員さんと動物双方の安全が保たれることは、ターゲットトレーニングの大きなメリットです。

ターゲットトレーニングの応用


ゴポンは「はな」のほかにもいくつか応用編に取り組んでいます。

▼現在は3種類!
「はな」:飼育員さんが呼ぶ場所で、ターゲット棒に鼻をつけさせます。
「ターン」:柵越しに飼育員さんと対面して、体を正面に向けさせます。
「口開けて」:えさを見せて高く上げる合図とともに口を開けさせ、歯のチェックなどをします。少しずつ、長く口を開けていられるようにします。

多摩動物公園のインドサイのトレーニングメニューは、飼育員さんがゴポンとともに試行錯誤してつくったもの。

ゴポンは食欲旺盛で気分のムラが少なく、トレーニングに協力的な優等生。ゴポンが積極的にトレーニングに取り組んでくれるおかげで、私たちにたくさんの気づきを与えてくれています。

足裏の管理を目指す

「バック」という新しい声かけもあるようです。

たくさんのトレーニングをこなすゴポン。現在の目標は、ゴポンが寝室の柵側にぴったりと体を寄せたり、足裏を人側へ向けて横になる姿勢をとったりすること。

(柵にぴったり体寄せ!成功。)

インドサイにとって、蹄や足裏の管理は非常に重要です。大型の草食動物は、足を悪くすると命にかかわります。長く横臥して起き上がれなくなると、自重に耐え切れなくなって臓器をいためることがあるからです。そのため多摩動物公園のサイ舎では、ふかふかの土や草を敷いて足の負担を軽減していますが、実際に足裏を見ることでより正確に健康チェックができるのだと考えられます。

「ゴポン」のこれまで

(金沢動物園時代の紹介ボード)

ゴポンはアメリカ出身。1999年12月22日、サンディエゴ動物園(米国カリフォルニア州)で父の「Godavari(ゴダヴァリ)」と母「Henry(ヘンリー)」の間に生まれました。

ゴポンのお母さん「ヘンリー」はたくさんの出産を経験しました。ゴポンのきょうだいは今でも11頭が生きていて、アメリカやドイツ、ベルギー、ポルトガル、中国などで活躍しています。

なお、「ゴポン(Gopon)」という名前の由来ですが、インドサイの故郷であるインドの言葉が由来になっているものと思われます。というのも、インターネットで「Gopon」と検索すると、ヒンディー語の記事が多くヒットするからです。一体どういう意味なのでしょう?

ゴポンは2003年3月19日に4歳で金沢動物園(神奈川県横浜市)に来園。

ゴポンが17年以上過ごした金沢動物園には、サイの形のパネルがあります。これはゴポンが初めて日本に来た2003年に使用した輸送箱の板から、「世界サイの日」を記念して作られたものです。

ゴポンはオスの「キンタロウ」(ドイツ出身)との間で、3回の出産・子育てを経験しています。2007年2月1日に初産で生まれた「アスカ」は、残念ながら1か月の命でした。2009年8月15日に生まれた「ブンタ」は名古屋市東山動植物園に、2014年1月31日に生まれた「チャンプ」は秋吉台サファリランドで元気に生活しています。

そして2020年12月9日、オスの「ビクラム」との繁殖を目指す「ブリーディングローン」によって多摩動物公園にやってきました。

金沢動物園からの搬出の際は、事前に慣れておいた輸送箱にすぐに入り、多摩動物公園到着後も落ち着いて過ごしました。

公開されたのも12月13日と、比較的早かったようです。ゴポンが金沢動物園時代からトレーニングを行ってきた賜物ですね。

ゴポンはバランスのよい顔立ちと、すらりと長いツノが特徴。

とっても可愛くて、美しいインドサイです。

ちなみにクロサイやシロサイのツノは2本ですが、インドサイのツノは1本なんですよ。ツノが短いインドサイが多い中で、ゴポンのツノはひときわ魅力を放っています。

「ビクラム」もゴポンに続く

多摩動物公園では、ゴポンだけでなくオスの「ビクラム」にも、ターゲットトレーニングを導入し始めています。目的は左前肢の蹄や足裏の治療

ビクラムは食欲旺盛で動きが早く、トレーニングにも意欲的なのだそう。でも、待つことは苦手…。個体ごとにトレーニングの工夫が必要ですね。

現在、ビクラムは「はな」の号令で柵沿いに移動ができます。少し体が柵から離れがちなので、飼育員さんはビクラムの動きに合わせてわざと床にえさを置き、食べている間に移動します。そして次の号令を出します。

ビクラムは「新しい動きをつくる方法」よりも「自信を持っている動きに条件を追加していく方法」が合っているようです。

積み上げたマットの上に足を乗せることもできたビクラム。一つ一つのトレーニングに真剣に取り組む真面目な性格です。

「ビクラム」のこれまで

(多摩動物公園園内掲示)

ビクラムは野生出身の個体です。2002年3月28日、推定月齢12か月でネパールのチトワン国立公園で迷子になっているところを保護され、多摩動物公園に来園しました。

2001年4月にネパール前国王(当時は皇太子)が訪日された際、両国の友好のシンボルとして日本国民にインドサイを贈呈するとの表明がありました。選ばれたのが、インドサイの繁殖実績があった多摩動物公園。メスの「ナラヤニ」とともにビクラムを受け入れました(ナラヤニは現在金沢動物園にいます)。

(ネパールの国立公園で餌をもらうオスのビクラム(「東京ズーネット」公式サイトより https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=news&link_num=124))

ちなみにチトワン国立公園には、ネパールのインドサイのほとんどが生息しています。

ビクラムは幼いころベンガルトラに襲われたことがあり、耳が垂れてしまっています。当時のトラウマがあり、周りの環境に敏感になったり、行動が慎重になったりしているそう。

筆者がビクラムに会いに行ったときは、顔まで水に浸かって、暑さをしのいでいました。

静かな園内で、ビクラムの「ゴポゴポゴポ…」という泡の音だけが響いていました(笑)30秒くらいは水中で息を止めていられるようです。

(カラスが来ても全く動じないビクラム)

日本の動物園にいるインドサイはたったの7頭。皆海外の血を持っており、中でも野生出身のビクラムの血統は貴重です。

歳の近いゴポンとの繁殖がいつか成功することを願います。

動物のトレーニングには学びがいっぱい

今回は東京都多摩動物公園のインドサイ「ゴポン」と「ビクラム」のトレーニングについて紹介しました。

動物にとっての「幸せ」を、私たち人間が完全に創造することは難しいかもしれません。でも確実なのは、「『健康』が動物にとって何よりの幸せ」だということ。ゴポンのトレーニングを観察して、それを改めて実感しました。

飼育動物は人間が健康を管理し、守っていかなければなりません。そのために、動物が意欲的に取り組んでくれるトレーニングを動物と一緒につくっている多摩動物公園。

私たちはそのトレーニングの内容や目的を知ること、応援することで少しでもトレーニングの成功に貢献できるのではないでしょうか。

(多摩動物公園の歴代インドサイ)

参考:
・「東京ズーネット」公式サイト
・「多摩動物公園」公式サイト
・「金沢動物園」公式サイト
・「Rhinos of the World」
https://www.worldrhino.com/

(ビクラムもトレーニング頑張ってね。)

文章・画像/名月子店(めいげつこてん)

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