「いしかわ動物園」(石川県能美市徳山町)ではたくさんの「サル」が生活しています。サルは私たち「ヒト」に近い存在ですよね。
いしかわ動物園のサルたちは、「ヒト」から遠い順に展示されています。園内を一周すると、「ヒト」の仲間がどのような進化をたどってきたのか、実際に動物を見て学ぶことができます。
いしかわ動物園の霊長目、どこで会える?
私たち「ヒト」の仲間のことを「霊長目」といいます。
いしかわ動物園では、4つのエリアで会うことができます。
①サルたちの森(順路前半)
②南米の森(順路前半)
③チンパンジーの丘(順路後半)
④オランウータンの森(順路後半)
「霊長目」は、画像のようにさらに枝分かれします。下にいくほど「ヒト」に近いとされています。
いしかわ動物園4つのエリアには、赤で囲った分類の動物が生活しています。
筆者は2023年3月中旬、すべての仲間たちに会ってきました。姿・形も違えば、その生態や性格も異なる、個性たっぷりの霊長目たちのようすを、その進化の過程とともにお届けします。
「サルたちの森」で「ヒト」から最も遠い仲間に会う
まずは「サルたちの森」から。ここは入園してからすぐの場所で、いつもサルたちと来園者の声で賑わっています。
ちなみに「サル」というのは、一般的には霊長目のうち、私たち「ヒト科」を除いた哺乳類のことをいいます。
サルの仲間は、
・原猿類
・旧世界ザル(狭鼻猿類
・新世界ザル(広鼻猿類)
・類人猿(オランウータン・チンパンジー・ゴリラ・テナガザルの4類)
の大きく4つのグループにわけることができます。
「サルたちの森」では、この4グループからそれぞれ1種類ずつ、展示されています。
それぞれの特徴や違いはどのようなものでしょうか?
【原猿類】ワオキツネザル(霊長目 キツネザル科)
「ワオキツネザル」は、マダガスカル島に生息する最も原始的なサルの仲間。
キツネザルの仲間は「霊長目」でありながら、分類的には「ヒト」からいちばん遠い位置にいます。
ヒトと比べると、脳が小型。代わりに嗅覚が発達しています。
とがった鼻や毛の多い耳から、一般的なサルの仲間(真猿)とは異なる顔つきであることがわかります。
名前の由来は、長い尾にいくつもの輪が連なっているように見える縞模様があるため(「輪尾」キツネザル)。地上を歩くときは、尾を高く上げるため目立ちます。
また、前あしの指は細長く、平たくて鋭い爪が。彼らは指を器用に使いこなして生活します。
就寝や採食は樹の上で行います。尾の長さは60cmほどあって、体長が40cmほどなので、尾の方が長いですね。
この存在感たっぷりの尾は、仲間との視覚的なコミュニケーションにも用いられるそうです。
グループ分けには理由があった!
いしかわ動物園では、ワオキツネザルをA、Bのグループに分けて、日替わりで展示しています(ほかに非展示の個体が2頭)。
ワオキツネザルは3~25頭の群れを作って生活するのですが、Aはすでに群れとして成立していて、今後Bグループを成立させられるように、数を増やしていくのだと思われます。
メスはオスより優位で、はっきりとした「階級」があります。Aグループの4頭の序列は、メスの「ブランチェ」が一番上。ブランチェは、22年前ドイツから来園しました。一緒に来園した歳の近い「ベラ」とは、今でも大の仲良し。
飼育員の滝本さんによると、最近のブランチェは体力が落ちてきたそうですが、ご飯のときはほかの仲間たちを蹴散らして(!!)独り占めするためいつも驚いているそうです(笑)
ちなみに、「ミュー」(Aオス)、「ギー」(Aメス)、「チップ」(Bオス)はブランチェの子ども。ブランチェはこれまで7頭の子どもを立派に育てました。
また、オスは群れの活動から離れる傾向があり、3年半ほどの周期で、別の群れに移動します。
Bグループにいる「チップ」は、Aグループから離れ、これから群れを作っていくということですね。
また、ワオキツネザルは体温調節があまり得意ではありません。
日当たりのよい場所では太陽に向かって両手を広げ、体を十分に温めてから活動を始めます。
飼育員の村田さんによると、彼らは怖がりな性格ですが、餌を与えるときはときは近寄ってくるので手渡しで与えるそう。「ベラ」と「ブランチェ」は肩にも乗ってくるのだとか。
ワオキツネザルは、「サルたちの森」の4種類の中で、一番落ちついて餌を食べるそうですよ。
【旧世界ザル】ブラッザモンキー(霊長目 オナガザル科)
続いては「ブラッザモンキー(ブラッザグエノン)」の紹介です。
ブラッザモンキーは、アフリカ大陸に生息している「オナガザル」の仲間。ワオキツネザルと比較すると、分類的にかなり「ヒト」に近づきましたね。
オナガザルの仲間が分類される「旧世界ザル(狭鼻猿類)」は、進化の過程で恒常的な「3色型色覚」を獲得しました。
つまり、ほかの哺乳類よりも多くの色を認識できるようになったということ。
哺乳類のほとんどは「2色型色覚」しか持たず、「3色型色覚」を持つ彼らは、くだものなどの発見に有利だったといわれています。
ひょこっと顔を出して、何かしゃべっていました。
ブラッザモンキーは顔の毛色に特徴があります。頭部の橙色と、鼻から顎にかけてのひげのような毛から、「黄門ザル」と呼ばれることも。
いしかわ動物園では、ワオキツネザルのお隣にいます。オスの「ジープ」とメスの「ユミ」そして2頭の娘「ジュンコ」の合計3頭を飼育展示しています。
メスとオスの違いは、体の大きさ。オスの方が大きいです。彼らには頬袋があり、一時的に餌をため込むことができます。
今回会えたのは、3頭の写真を見てみるとおそらくオスの「ジープ」ではないかと思います。
「ジープ」のクセ?
ジープはなぜかよく口を開けているように思います。笑っているような、「あのさぁ!」と物申しているような表情がなんとも可愛いです。
そうかと思えば、突然「スンッ」と真顔に…。
そしてよくおしりも見せてきます。正確には、樹や流木のおもちゃに頭をこすりつけています(ヘアセット?)。
多くのサルは樹の上で生活しますが、ブラッザモンキーは森林の下の草木や地上をよく利用する「半地上性」の生活をしています。
また、ブラッザグエノンは見た目や生活だけでなく、コミュニケーションも独特です。
うなり声をあげたり、木の枝を揺らしたり…様々な表情や、独特の行動(イライラしている時は頭を振る、肯定的な時にはうなずくなど)を通してコミュニケーションをとっているとされています。
ジープが口を開けたりおしりをむけたりしていたのは、何かのサインだったのかもしれません。
次回予告
今回は、「サルたちの森」の仲間を2種類、「ヒト」から遠い順に紹介しました。
どちらも視覚的なコミュニケーションをとる仲間だということがわかりますね。ワオキツネザルは体よりも大きな尾を使って。ブラッザモンキーは、それに加えて音を使った意思疎通も見られます。
そしてブラッザモンキーは、体の色もカラフル。彼らが多くの色を認識できるように進化したことと、何か関係があるかもしれません。
次回はいしかわ動物園のより「ヒト」に近づいた「サル」たちを紹介。一体どのような進化を遂げたのか…?
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文章・画像/名月子店(めいげつこてん)