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【雨の動物園】よこはま動物園ズーラシアで、「サバンナの雨の王者」を見つけた【魅力解説】

これからの季節、雨が多くなっていきますね。
お家でゆっくりするのもいいですが、雨の中でいきいきと生活する動物に会いに行くのはいかがでしょう?おすすめの動物園は、日本最大級の動物園「よこはま動物園ズーラシア」(神奈川県横浜市旭区)。

今回は雨の日のズーラシアの魅力に迫ります。
活発な動物の姿には、彼らの「ふるさと」が関係していたーー?

【ズ雨ラシアの魅力】施設編

(開園前のようす)

まず、雨の日は晴の日と比べると来園者が少ないことが魅力です。
筆者はゴールデンウイーク最終日の2023年5月7日に来園しました。

20人くらいは並んでいたのですが、なぜか筆者が入園すると、前を見ても後ろを見ても、誰もいません。なぜかは分かりませんが、ゆっくりと、好きな場所から動物を観察できたのでヨシ。

ズーラシアは「生命の共生・自然との調和」をテーマとした動物園。
動物がいることにギリギリまで気づかないくらい、自然豊かで広大な土地が広がっています。

筆者は周りに人がいないことをいいことに、動物を見つけるたびに「あっ、いた!」と声を出したり、「おはよう!」と話しかけたりしました。

たくさん人がいたらできないような楽しみ方が、雨の日ならできるというわけです。

(この先にどんな動物がいるんだろう…。)

 

【ズ雨ラシアの魅力】動物編

公式ホームページにある通り、ズーラシアは「生息環境展示や世界の気候帯・地域別にゾーニング(区分け)することにより、世界旅行ができる動物園」です。

雨の日は動物が本来暮らしている「世界の気候帯」をより身体で感じることができます。

そもそも、動物は雨が好きなのでしょうか?
その答えは、彼らの本来の生息地の環境を知るとわかりやすいです。

今回は筆者が実際に出会った「雨が好きそう!」な動物を3種類、紹介します。

インドゾウのラスクマル&シュリ―

まずは正門から入園するとすぐに出会える「インドゾウ」を紹介。

ズーラシアではオスの「ラスクマル」(32歳)とメスの「シュリ―」(28歳)が暮らしています。
見分け方は牙と皮膚の色。牙があって皮膚がピンク色なのがラスクマル。牙がなく、皮膚がグレー色なのがシュリ―です。

(シュリ―さん)

シュリ―は食事に夢中。開園してすぐの時間だったので、草がたくさん積まれていました。
彼女は自由気ままな性格で、ごはんもたくさん食べるんだそうです。

一口でそんなに食べるの!?

(ラスクマルさん)

一方、立派な牙を持つラスクマルは、遊びが大好きで、好奇心旺盛。
普段から飼育員さんのことをよく観察しているんだそう。

筆者に気づいたラスクマルは、ゆっくり近づいてきて、お堀のギリギリまで来てくれました。
「おはよう。」と言ってみると、

鼻を上げながらお返事してくれました!
とても可愛いですよね。ラスクマルとずっとお話したいなと思った瞬間です。
しばらく筆者を観察したのち、近くの草を食べながら奥に戻っていきました。

(シュリ―はまだまだお食事中。)

さて、2頭は雨をまったく気にせず、各々の時間を楽しんでいるように見えました。インドゾウは雨が好きなのでしょうか?
彼らの生息地の気候からから探っていきましょう。

インドゾウは、アジアゾウの亜種。アジアの13カ国に約4万頭生息しているといわれており、 そのおよそ3分の2である約25000頭がインドで暮らしています。

インドは地域によって、気候がまったく異なります。ヒマラヤ山脈の周辺は寒冷気候、西・北部は砂漠気候を含む乾燥気候、中・東部は温帯気候、そして南部は熱帯気候となります。

インドゾウが多く生息しているのは、おもに南から東部。つまり「温帯・熱帯気候」の地域。

(ズーラシア園内掲示。ラスクマルやシュリ―がインドで暮らしていたころのようす)

インドでは、だいたい6~9月が雨季、10~3月の間が乾季、11~2月になると冬。南部では冬でも最高気温が30℃前後あります。インドゾウは気温が高く、雨季が長い場所で暮らしているんですね。

そのため、インドゾウは雨が大好き!

長い乾季と、雨季の前の「暑季」を乗り切るためにも、水が欠かせません。そのため動物園でも、夏はたくさん水浴びをします。飼育員さんによると、ラスクマルとシュリ―も水浴びが好きで、足の裏が見えるくらい全身浸かることもあるのだとか(!?)。ラスクマルの体重は5トンもあるので、迫力たっぷりですね。

(ラスクマルさんの頭、プリンみたいになってる…)

ゾウは水浴びを終えると、体に砂や泥をかけます。

それは、「殺虫効果」があるといわれているから!
水浴び+泥・砂=ダニや寄生虫を防ぐ という公式が、ゾウの遺伝子には存在しているんです。

そして、「保湿効果」も期待できます。泥パックを終えたあとはまた、水を浴びて流します。
天然の水浴びができる雨は、ゾウにとってありがたいものなんですね。

(シュリ―さん、やっと朝食を完食。嬉しそう。)

 

スマトラトラのデル

続いて、「スマトラトラ」の紹介です。ズーラシアでは、インドゾウのエリアを10分くらい歩いた場所で会うことができます。

この日、展示場にいたのはメスの「デル」(インドネシア語で「蕾」)。2006年9月にイギリスのチェシントン動物園で生まれ、今年で17歳になります。

デルは熱心にパトロール中でした。雨脚の強まりとともに、彼女の足取りも軽くなります。
展示場の小さい滝や川もチェック。もしかしたら獲物がいるかもしれませんからね。

スマトラトラはほかのトラと比較すると、縞模様の数が多くてはっきりとしており、毛深いことが特長です。デルは高齢のトラですが、それを全く感じさせないくらい毛がふさふさで、ツヤが良いですね。

(画像提供元:zoo zoo diary/赤で囲ったのがズーラシアで生活している個体)

日本のスマトラトラの歴史は、「デル」から始まったといっても過言ではありません。日本で暮らしているスマトラトラのほとんどが、デルとその姉妹「バユ」(インドネシア語で「嵐」)の血を引いています。

(目の前に来たデル)

スマトラトラは、インドネシアのスマトラ島のみに、400~600頭程度しか生息していないとされる、希少なトラの亜種のひとつ。

スマトラ島の気候は、「熱帯モンスーン気候」というものです。乾季と雨季がありますが、乾季は弱く、雨季の降水量が乾季のそれを補って余りあるほど大変多いことが特徴。

スマトラトラが雨を好きかどうかは、もうわかりますね。彼らにとって雨は「当たり前の存在」なのです。

スマトラトラを飼育(2023年3月時点)している各地域の年降水量と、平均気温をまとめてみました。

スマトラ島の数字(赤字)と比べてみてください。高知県や宮崎県以外の動物園がある地域は、スマトラ島より雨がとても少ないですね。また、気温に関しては最低気温すらスマトラ島の方が高いです。それでも日本のように水不足にならないのはすごいですよね。

そんな日本で暮らすスマトラトラたちは、ふるさとの仲間よりも雨を喜んでいるかもしれませんね。

ちなみに先日、ズーラシアで暮らすスマトラトラ「ラウト」が宮崎フェニックス自然動物園へ出園することが決まりました。

「バユ」の娘であるラウトは、デルの息子である「ファントム」との繁殖を目指すことになります。神奈川県と宮崎県だと気候が少し異なるので、無事に慣れていってほしいですね。

ちなみにファントムは2016年に生まれてから2018年までズーラシアで暮らしていました。「神奈川→宮崎ルート」の先輩!

リカオンのシー

最後は「リカオン」の紹介です。
ズーラシアは正門から入園したあと、すぐに園内バスで北門に行くことができます。北門付近で最初に会うことができるのがリカオンです。

ズーラシアには2022年時点で11頭のリカオンが生活しています。今回1頭で展示されていたのは、メスの「シー」。左足としっぽが白いのが特徴です。

ズーラシアのリカオンたちの見分け方は、過去に飼育員さんがブログにアップしているので興味がある人は調べてみてください。

シーは雨の中、じっと首を垂れていました。雨が苦手なのかな、と思った次の瞬間!

目にも止まらぬ速さで展示場を駆け巡りました。10分経っても20分経ってもシーは走り続けます。

リカオンは、別名「アフリカン・ハンティング・ドッグ」と呼ばれる狩りの名手です。その成功率は80%!ライオンやチーターと比較すると圧倒的に高いです。

成功率のカギは、持久力チームワーク能力の高さにあります。イヌ科である彼らはネコ科の動物よりも持久力がはるかに上回っており、時速60kmの速さで30分以上も獲物を追跡できます(ライオンは同じくらいの速さで数分しか走り続けられません)。獲物が疲労困憊するまで追いかけ続けるので、その狩りの仕方は「執着狩り」と呼ばれることも…。

(雨宿りをするチーターのクラリスさん)

しかも、ライオンやチーターは、雨が苦手。ズーラシアでも、ライオンやチーターは木の下や屋内でじっとしていました。

でも、シーは雨をものともしません。筆者はシーを目で追い続けるだけで疲れるというのに、彼女のスタミナは底知れません。
飼育員さんからお肉をもらって嬉しそうに食べていました。

リカオンの生息地は、サハラ砂漠・熱帯雨林をのぞくアフリカ大陸の草原やサバンナなど。生息地の気候は「サバンナ気候帯」といいます。

「サバンナ気候帯」の特徴は、年平均気温が20℃以上、年降水量が1000mm前後であること。日本と似ている?と思うかもしれませんが、全く異なる点が一つ。それは「1年の間で雨季と乾季がはっきりと分かれていること」。

アフリカのサバンナ気候帯は特に、熱帯雨林気候と砂漠気候の中間に位置しています。雨季となる夏は大量の雨が降り、乾季である冬はとても乾燥します。日本よりも極端な変わり方をするんです。

たくさんの動植物が生息する国立公園が多く存在するのもこのサバンナ気候帯。大量の雨が生物に恵みをもたらすのですね。

余談ですが、実は日本にもサバンナ気候の地域があります。それは「東洋のガラパゴス」と呼ばれる小笠原村。小笠原村には貴重な固有種が数多く暮らしています。

(お肉を完食して嬉しそうなシー)

筆者がシーに出会った時間帯はちょうど大粒の雨が土砂降りだったので、ふるさとの雨季が再現されているようでした。

というわけで、リカオンも雨が好き!
もしかしたら「雨が苦手なライオンやチーターたちがいない隙に、狩りに出よう!」という本能もあるのかもしれません。

ただでさえ狩りの成功率が高いリカオンたちは、雨の日にサバンナの王者となるのです。

雨の日の動物を知ってこそ、真の理解者になれる

(ラスクマル)

私たち人にとっては、「動物園は晴の日に行くもの」という認識があるかもしれません。

しかし、雨の多い地域に生息するインドゾウ、スマトラトラ、リカオンのような動物たちの「本来の姿」に出会うなら、「動物園は雨の日に行くもの」かもしれません。

筆者は雨の日の動物園の魅力に気づいてしまったので、ほかにもいきいきと活動する動物がいないか、探す楽しみができましたよ♪

文章・画像/名月子店(めいげつこてん)

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