
2023年2月の記事で、上野動物園(東京都台東区)の2大長老のうちの一頭、イリエワニの「フック」くんを紹介しました。

2023年5月末、再びフックくんに会いに同園内の「両生爬虫類館VIVARIUM」へ。
今回はフックくんのようすと、イリエワニの「歯」のついて、疑問に思ったことを調べてみました。
フックくんの紹介

名前:フック(オス)
動物名:イリエワニ
生まれ:1966年(ミャンマー生まれ)
来園日:1966年3月6日
年齢と飼育年数(年):2023年時点で「57」
大きさ:体長5m、体重500kg(推定)※大きすぎて正確な測定ができないのだとか…

フックくんの名前の由来については、以前飼育員さんが教えてくれました。生まれた年に上野動物園にやってきたフックくんは、当時から左手がなく、アニメ「ピーターパン」の「フック船長」にちなんで命名されたそうです。
57年も前のことなので、生まれたばかりのフックくんのようすを知っている人はごくわずかでしょう。赤ちゃんの頃の写真をネットで探しましたがありませんでした。
フックくんの「歯」を見て思ったこと

ワニ(鰐)の最大の特徴といえば、やっぱり立派なあご(顎)と歯!
2月に訪れた際は近くで見ることができませんでしたが、今回は水中をゆったり泳ぎ、近くで立派な歯を見せてくれました。

筆者との距離は、ガラスの厚さ分の距離のみ!
水中が暗いのでより怖く感じます。
大迫力のフックくんの歯を見てまず思ったのは「なぜ全部の歯がとがっているのだろう?」ということ。
獲物を捕まえるときは有利そうですが、食べ物を噛んだりすりつぶしたりするときはどうしているのでしょうか?
そして次に「ワニの歯の生え方はヒトと同じなのだろうか?」と思いました。
例えばワニには私たちヒトのように歯茎や歯を支える骨があって、子どもの歯(乳歯)から大人の歯(永久歯)に生え変わっていくのでしょうか。
ワニの歯の生え変わり速度はすさまじい!

まずはワニの歯の生え方について。
なんと、ワニの歯は一生の間に、20回以上も生え変わります!(参考:お口からはじめよう!職場の健康マネジメント https://onl.sc/akmj3G8)
ワニの歯は80本とされているので、生涯のうちに生える歯は約「2000本」。
動物の歯の生え方は大きく分けて3種類あり、ワニは「多生歯性」に該当します。
一生のあいだに一回だけ歯が生えるものを「一生歯性」(ネズミなど)、乳歯から永久歯に生え変わるものは「二生歯性」(ヒトやイヌなど)、そしてワニのように何度も生え変わるものは「多生歯性」と呼ばれています。
どうやって生え変わっているの?

ワニと同じ「多生歯性」の仲間として有名なのは「サメ」です。
サメにはたくさんの歯列があり、そのうちの2列を使って獲物を捕ります(種類によって異なります)。

後ろにはたくさんの予備の歯が並んでいて、前列の歯が割れたり、すり滅ったりすると、自然に抜け落ちて予備の歯が前に移動します(参考:みんなの歯医者さんネット https://www.haishasan.net/tips/trivia/trivia04.html)。
ワニもサメと同じような生え変わり方をするのでしょうか。
「ワニの歯の再生に関する実験的観察」(著・鳥居秀平他 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jstage.jst.go.jp/article/koubyou1952/68/4/68_4_314/_pdf)によると、その答えは「NO」。
ワニの歯の生え変わり方はサメとは異なり、私たちヒトと似ています。
サメの歯には「根っこ」(歯根)がありません。進化の過程で、肌の一部が発達してできたからだと考えられており、もともと抜けやすい構造をしています。一方ワニの歯には歯根があり、予備の歯は、生えている歯の下に準備されています。
サメは後ろから、ワニは下から生え変わる、というわけです。
ワニ研究者・福田雄介先生のツイートした写真を見てください。ワニのあごの骨には、ヒトと同じく、歯根がはまり込む穴(歯槽)が存在し、歯は歯槽にしっかりとはまっています(これを「釘植」(ていしょく)といいます)。
爬虫類の中でもこのような歯の生え方をするのはほとんどがワニの仲間。私たちヒトの歯の生え方と「まったく同じ」なのです(参考:ワニ(Caiman Crocodilus)の歯に関する組織発生学的研究 https://www.jstage.jst.go.jp/article/koubyou1952/42/3/42_3_328/_pdf)。ちなみにほとんどの爬虫類の歯は、あごの骨に直接くっついています。
ワニは爬虫類ですが、哺乳類のような特徴も持っている動物なんですね。
どのくらいの頻度で生え変わる?

一生の間に20回以上生え変わるワニの歯。生え変わりの頻度はどのくらいなのでしょう。
イリエワニの寿命は70年前後。上野動物園のフックくんは2023年現在、推定57歳です。
70年間に25回生え変わるとすると、1年に2回~3回くらいの頻度となります。ただ、これは一定ではありません。ワニの最初の歯は1mmにも満たない大きさですが、成長すると数cmになります。歯の生え変わりは歯が小さいほど早く、成長とともに体や歯がが大きくなると遅くなるようです。また、個体によっては50~60回ほど生え変わるものもいるのだとか。
園内でワニの抜け落ちた歯や生え変わりの瞬間を目撃できた人は、かなりラッキーですよ♪
なぜ「抜けにくい」のに何度も生え変わるのか

ワニの歯と私たちヒトの歯との共通点は、その材質にもあります。
ワニの歯はほかの爬虫類とは異なり、上部の表面には「エナメル質」(見えている部分で、白くつやつやしている)が、根っこの表面には「セメント質」、歯の内部には骨に近い材質の「象牙質」が存在しています。
以上のことから、ワニの歯は「多生歯性」であるにもかかわらず、かなり「しっかりしている」ものであることがわかります。歯槽にしっかりと植わり、材質もしっかりと層に分かれている…。
ワニの歯は、サメのように抜けやすいわけではないけれども、何度も生え変わるのですね。
一説では、サメのように「歯への衝撃」が生え変わりのきっかけになるわけではなく、一定の「時間」がたつと抜けて生え変わるようです(参考:http://odontology.sakura.ne.jp/reptile.html)。生え変わりの時期がくると、「破骨細胞」というものが歯を溶かし、残った歯が根本から折れて抜け落ちるのだとか。
ワニの遺伝子は「歯をしっかり作るけど何度も生え変わる」ように設計されているんですね。これはヒトとは「まったく違う」点です。
ワニの歯は生活でどう活きるのか

さて、筆者がフックくんを見たときに最初に思った「全部の歯がとがっているのはなぜか?」という疑問。
答えはワニの歯のもう一つの特徴にありました。
それは「同形歯性」であるということ。
私たちヒトは「雑食」であるため、さまざまな食べ物を食べることに適した切歯、犬歯、小臼歯、大臼歯という4種類の歯があり、それぞれに役割があります。
一方、ワニの歯はすべて同じ、円錐形のとがった形をしています。
実はワニの歯は、ほかの動物のように「噛むための歯」ではなく、捕まえた動物が離れぬように「押さえておくためのもの」!(参考:お口からはじめよう!職場の健康マネジメントhttps://onl.sc/KLm4mgC)いわば檻のような役割をするため、とがった歯が交互に並んでいるのです。
そのため、基本的に獲物は丸飲み!超強力な胃酸で、獲物の骨まで溶かします。
また、胃の中で食べ物をすりつぶしたり、水中で体重を調整したりするために、彼らは「石」を捕食する習性もあるそうです。
ちなみに彼らは主に魚やカエルなどを食べますが、ヤマアラシや鳥、他のワニなども食べます。また、イリエワニなどの大型のワニはシマウマ、オグロヌー、イボイノシシなどの哺乳類を食べることも。幼体も動物食で、昆虫、クモ、甲殻類などを食べます(Wikipediaより)。
フックくんは10日に一度、食事をとっているそうです。
ワニは虫歯にならないの?
ワニはほとんど虫歯にはなりません。
その理由は、もちろん何度も生え変わるから。そして、虫歯の原因となる「糖」をほとんど食べないため、糖をもとにして増殖する「虫歯菌」も増えないからです。
ワニに限らず、糖をあまり摂取しない動物は虫歯になりにくいです。

また、ワニの歯が黄ばんでおらず真っ白なのは、ずっと水にさらされているためではないかと思います。
歯の白い部分(=「エナメル質」)を正常に保つには水が必要で、歯が長時間空気にさらされるとエナメル質がもろくなり、ひび割れたり、病気になったりする可能性が高まります(参考:時事通信ニュース (https://sp.m.jiji.com/article/show/2920039)。水の中にいることも多いワニは、歯のエナメル質が正常に保たれ、着色汚れなども水で掃除できるため、真っ白なのだと思います。
ワニの歯は私たちと「まったく同じで全く違う」!

今回は上野動物園のイリエワニ「フック」くんの歯を通して、ワニの歯とヒトの歯の共通点・相違点を探っていきました。
①共通点
・歯の生え方(歯根が「歯槽」にしっかりとはまっている=「釘植」)
・歯の材質(「エナメル質」、「セメント質」、「象牙質」が存在)
②相違点
・「多生歯性」であること
・「同形歯性」であること
・虫歯になりにくく真っ白なこと

ヒトの歯とは見た目がまったく違うワニの歯。生え方と材質という、大きな共通点があったことには驚きです!
わたしたち哺乳類は、爬虫類から進化して生まれました。爬虫類の中でもワニは、現生の動物の中で「鳥類」と最も近縁な仲間なのだそう。爬虫類、哺乳類だけでなく鳥類とも近いワニは、まだまだ進化の途中なのかもしれません。
皆さんも動物園で出会った動物の「歯」をよく観察してみてはいかがでしょう。私たちと同じところ、違うところを調べてみると、新しい発見があって面白いですよ♪

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文章・画像/名月子店(めいげつこてん)