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2023年5月25日、科学メディア「ナゾロジー」にてこんな記事がアップされました。
「動物園のゾウは私たちの来園を心待ちにしているようです。~(中略)ゾウは来園者の数が多いときほど、ひとりぼっちで過ごす時間が減り、仲間とのコミュニケーションなどの社会的行動が増加していたのです。」(ナゾロジー「動物園ではゾウが最も人間が遊びに来るのを喜んでいた!」https://nazology.net/archives/126716 より)
筆者は上野動物園(東京都台東区)のゾウ達に会いに行って、ゾウが来園者の存在を喜んでいるのかどうか確かめてみました。来園時期は2023年5月末の土日。
アルン
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「ゾウのすむ森」では、2023年6月現在3頭のアジアゾウが暮らしています。
まずは2020年10月31日に誕生したオスの「アルン」のようすから。
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筆者はこの日、初めてアルンに会いに行きました。
すでにたくさんの来園者に囲まれていたアルンは、少し遠くからチラッとこちらを見ていました。
ゾウのオスの特徴である牙が、少し伸びてきていますね。
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アルンは基本的にお母さんの「ウタイ」と一緒に行動しています。
ゾウは8歳~9歳くらいまで、母親から10メートル以上離れることはほとんどありません。
さて、アルンは来園者の存在を喜んでいるのでしょうか。
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岩陰に隠れながらも、こちらを見ながら鼻を上げ下げするアルン。
ゾウが鼻を高く上げるのは「警戒」の意味もありますが、「興味」の表れでもあります。
アルンは警戒しながらも、私たちに興味を持ってくれているようです。まだ喜ぶとまではいかないのかも…?
アルンは「奇跡の子」
参考:東京ズーネット公式サイト
生まれた直後のアルン。毛がふわふわで、とても可愛いですね。
上野動物園では134年もの間、アジアゾウを飼育しています。しかしその間一度も、繁殖には成功していませんでした。
ゾウの繁殖は非常に難しく、国内でもこれまで10件程度しか成功例がありません。発情の見極めが難しいことや、ペアでの飼育例が少ないこと、ペアリングのために、大きな体を移動させることが難しいことなどがその理由。
アルンは上野動物園にとって初めての、そして待望のゾウの赤ちゃんなのです。
生まれたときの体重は約120kgでしたが、生後半年で300kgを超えました。2022年の夏には800㎏に。現在はもっと大きくなっていると思うので、1tに達しているかもしれません。
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アルンの鼻は細くて短く、始めのころは物を拾うのに苦労したり、うっかり自分の鼻を踏んづけてしまったりしたそう。今ではさまざまな経験をして、鼻の使い方を学んでいるようです。
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小さい物を拾ったり、体にどろをかけたりもできるようになっています。
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ちなみにアルンの名前は、「タワン」「アルン」「アッサドン」の3案から投票で決まったんですよ。「アルン」はタイ語で「夜明け」という意味。
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通常、野生のアジアゾウは2〜3年ほどで離乳を迎えます。
上野動物園でも、ウタイがアルンの授乳を拒む行動が増えてきました。アルン誕生から2年半。野生のアジアゾウと同じように、離乳の時期がきたということですね。
ウタイ
参考:東京ズーネット公式サイト(https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=news&inst=ueno&link_num=215)
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アルンのお母さん「ウタイ」は1998年2月7日生まれの25歳。2002年10月、タイから日本国民への友好のしるしとして寄贈されました。
「ウタイ」とはタイ語で「日の出」という意味で、日本の国旗をイメージして命名されたそうです。
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そんなウタイは、どんなに来園者がたくさんいても全く動じず、マイペースなようす。私たちの目の前まで来て、草をモリモリ食べています。
どうやらウタイは来園者の存在を喜んでくれているようです♪
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「ナゾロジー」の記事には「ゾウは来園者が来ることで食事量や仲間とのコミュニケーションが増え」る、とあります。ウタイは来園者がいるからこそ、たくさんごはんを食べてくれているのかもしれませんね。
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ウタイはタケの葉をぱくり。しばらく私たちをじっと見つめたあと、鼻でもう一房タケの葉を掴み…
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急にくるっと背中を向けて歩き出しました。
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その先には、なぜか草まみれのアルンが!
タケの葉をあげるようすがとても微笑ましいです。
ウタイの子育て
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ウタイは今回が初産でした。
2016年頃に一度妊娠が確認されましたが、残念ながら流産。それだけに、今回の出産はとても慎重に見守られていました。
動物の子育てにおいてもっとも大切なことは、「わが子をわが子として受け入れる」ということ。初産であるウタイは、アルンを受け入れて子育てできるかどうかが心配されていました。
出産直後は興奮して、アルンを受け入れるのに時間がかかったウタイですが、産後3日目で無事に授乳することができ、初めての子育てをしっかりとこなしました。アルンはウタイを頼り、ウタイはアルンを守る行動が頻繁にみられることからも、母子の絆はとても強いものであることがわかります。
飼育員さんのサポートはもちろんですが、ウタイ自身が母性を発揮してくれたことが、現在のアルンのすこやかな成長につながっています。
今後も、アルンの成長につれて、ウタイとアルンの関係は徐々に変化していくようです。
飼育員さんによると、当面はウタイ&アルン母子と、単独飼育となっている「スーリヤ」(メス)との同居に向けて取り組み、その後、アルンが独り立ちできるよう母子の距離を少しずつ離していく予定とのこと。
草まみれのアルンの行動
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アルンはなぜ草まみれだったかというと、草を掴んで背中にかけていた(?)からです。水浴びならぬ「草浴び」!
鼻を上手に使えるようになったことが嬉しいのでしょうか。
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ケーキにかかった粉砂糖みたいに、きれいに草が乗っています(笑)草浴びをしてからご機嫌になったアルンは、私たちの前を走り回っていましたよ。
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ひとしきり走ったあと、先程ウタイが草を食べていた場所へ。
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授乳が減ってからは、ウタイと同じ青草や乾草、ワラ、タケなどを積極的に食べるようになったアルン。
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食べている顔が笑っているようで可愛いですね。
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ウタイと比べるとまだ一口の量が少ないものの、上手に口まで運んでいます。そして…
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アルンもウタイと同じように、ちょっとだけ草を持ってウタイのところへ!
親子で草をプレゼントし合っている光景は心が温かくなりました。
ウタイは自分のえさをアルンに取られまいと、アルンのことを蹴ったり、鼻で押したりしてえさを独り占めしようとする行動がみられるそうですが、自分のえさに余裕があるときはアルンにも分けてあげるようです。
近い将来、2頭は別々に暮らすようになります。それまで、ウタイの初めての子育てと、アルンの成長をあたたかく見守りましょう。
スーリヤ
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最後はメスの「スーリヤ」。現在推定29歳です。
2001年4月にインドからの贈りものとしてやってきました。「スーリヤ」とはヒンディー語で「太陽」という意味です。
インドの森で迷子になっているところを保護されたスーリヤ。上野動物園に来園してからは、たくさんのゾウと一緒に暮らしてきました。
しかしスーリヤは2021年3月、一緒に暮らしていたメスの「ダヤー」が亡くなってしまい、精神的に不安定になってしまったそうです。ゾウはとても感情豊かな動物で、仲間と一緒に楽しんだり、仲間の死を悲しみ涙を流したりします。
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そんなスーリヤも、ウタイやアルンと同じく来園者から大変人気の存在です。彼女は来園者をじっと見つめ、一人一人を観察しているようでした。
この日はスーリヤの正面に立って、絵を描いている来園者がいました。スーリヤは特に、その人に注目していたように思います。
まだ精神が癒えていない可能性のあるスーリヤは来園者の存在を喜ぶ行動は見せませんでしたが、落ち着いていて、優しい目でこちらを見てくれました。
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飼育員さんはスーリヤを元気づけるためにも、ウタイ&アルンとの同居を試みました。しかし、小さな体で素早く走り回るアルンにスーリヤが驚いてしまうことがあり、現在は放飼場を分けています。
今後は時間をかけて、3頭一緒の放飼を目指していくそうです。
スーリヤがウタイ&アルンとの絆を深めて、元気になってくれることを祈ります。
ゾウの「喜び」はそれぞれだった!
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「ゾウは来園者の存在を喜んでいる」
今回、上野動物園で検証したこの説。
筆者としてはもっと、ゾウの「喜び」について知る必要があるなと思いました。どんな行動をとるとそれが「喜び」なのか…それを知れば知るほど、この説は有力なものになっていきそうです。
今の筆者の知識では、鼻を上げたり、いろんな場所を移動したり、たくさんごはんを食べたり、といった行動がゾウの「喜び」なのだろうと思います。それ以外にもまだ、喜びの表現があるかもしれません。
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加えてゾウ一頭一頭の「ストーリー」を知ることも大切です。
上野動物園で暮らす、「太陽」のスーリヤ、「日の出」のウタイ、「夜明け」のアルンの3頭。それぞれが経験してきたことを知ると、個体ごとの「小さな喜び」に気づくことができるかもしれません。
今回は2日間での検証でしたが、もっと長期的に観察することで説をより確かなものにできればと思っています。
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文章・画像/名月子店(めいげつこてん)