保全・研究という役割は、来園者に直接的に実感されるような役割ではありません。役割の大半は、地道な上に華々しいものではありません。結果を基に、情報や記録として次世代や世界各国の研究機関へと共有されます。これは動物園という枠を飛び出して、世界の野生動物保護の分野への貢献です。
こういった社会貢献が企業・団体・施設の存続に強く影響してくる傾向が欧米を中心に強くなっています。CSR(Corporate Social Responsibility)という企業の社会的役割を問うことをビジネスとして意識しているのです。保全・研究・繁殖の結果を実際に野生動物保護の世界に活用することで、動物園・水族館という施設のCSRは評価され、その存続の正当性を世界に認められることになっていくのです。
野生動物保護を意識した動物園の在り方
野生動物保護に反映される動物園・水族館の在り方とはどういったものでしょうか。これは結果を可視化することが出来ないということがもっとも大きな課題です。なぜなら動物保護とは、長期的な計画のもと効果を継続させることが目的であり、具体的な終着点に着地するものではないからです。この長期的な計画の中には膨大な量の情報と、膨大な観察・研究結果が反映されるのです。
野生下と飼育下の動物では、その生態や行動が異なるのは事実です。さらに動物園や水族館で得られたデータの有効性も大々的に評価されるわけではありません。もっとも大きな違いは住環境の違いです。例えば、野生下のスマトラトラは5,000ha(東京ドーム 約1,070個分)ものテリトリーを有しますが横浜ズーラシアの展示場でも700haほど。行動・生態に違いが存在するのはごく自然なことです。だからこそ動物園や水族館の展示方法には、生息地を可能な限り再現することが理想だと思うのです。このような細かな配慮、可視化できる動物園の変革姿勢が保全・研究といった役割を担おうとするファイティングポーズとなると考えています。
来園者にできること
ここまでお話してきたことは、運営側サイドとして意識すべきポイントで読者の方を中心に来園者となる方々が具体的な行動を起こせることではありません。ではなぜお話をするのか…それは私たち利用者側に出来ることは、理解し賛同することだからです。
このような改革は必ずしも来園者にとって有益な結果をもたらすとは限りません。例えば、利用料金の値上げ。須磨水族館の再開発でも利用料金の値上げは大きな問題となっていますが、シャチの導入など新たな生命を維持管理していく上での資金調達は必須条件です。(シャチ新規導入の是非はここでは問いません…)このような変革の中で、私たち利用者にとっての不利益が生じたとしても正当な理由・要因に対して、社会的役割を担うために利用者として寛大で協力することが求められています。
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文章/T.A.L.L